【第6話】「普通の人の倍くらいはいけています」——国循で知った、彼の心臓の話

彼の心臓の話 心筋梗塞の記録

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「普通の人の倍くらいはいけています。」

——CPX検査後、検査技師の方より

宮崎の海で彼が倒れてから、約1か月が経っていました。

彼は国立循環器病研究センター(国循)での外来通院を始めました。心筋梗塞の後、心臓の状態を専門の先生のもとで丁寧に診てもらいながら、回復の経過を見ていく日々です。

私は仕事を調整して、できる限り付き添いました。あの宮崎の5日間とは違い、今度は隣にいられる。それだけでなんかほっとしました。

そして1月下旬のCPX(心肺運動負荷試験)の日、検査が終わったとき、検査技師の方が彼にこう言いました。

「普通の人の倍くらいはいけています。」

その言葉を聞いて、本当にほっとしました。——心筋梗塞を経験した後でも、プロサーファーとして長年、海に向き合い続けてきた彼の体は、機械が測った数字の上でも、その積み重ねを証明していました。

1月20日——初めての国循受診

退院からおよそ3週間。彼の最初の国循外来に、仕事を休んで付き添いました。

担当の先生は、穏やかで、とても頼りになりそうな方でした。説明はわかりやすく丁寧で——ただ、その内容は、決して楽観できるものではありませんでした。

🔴 「右側の冠動脈にも50〜75%の狭窄があります。今後、詰まる可能性があります。薬で抑えられる方と、そうでない方がいるので、経過を見ながら判断します。」

発症した左前下行枝だけでなく、右の冠動脈にも問題があった——その言葉を目の前で聞いたとき、安心とは程遠い気持ちになりました。

でも、検査の結果が出てから、先生の表情が少し変わりました。

🌼 「心臓はしっかり動いています。EF(心臓が血液を送り出す力の指標)は60〜65%。今回の心筋梗塞でのダメージは少ない。BNPも正常です。心機能に問題はありません。将来的な運動の制限も、おそらくないでしょう。」

宮崎で最初に測ったときのEFは50%でした。それが、60〜65%に回復していた。心臓は、ちゃんと動いていました。

LP(a) という、知らなかった数字

その日の検査で、初めて目にした数値がありました。「LP(a)」——リポプロテイン(a)といいます。

50を超えると高いとされる中、彼の値は62。先生はこう言いました。

📖 「体質的にコレステロールが高かったんだろうと思います。生活習慣だけが原因ではない可能性があります。」

遺伝的な体質の影響がある場合、どれだけ食事に気をつけても、完全にはコントロールできない部分があるとされています。その言葉を聞いたとき、ずっと心の隅にあった問い——「気をつけていれば防げたのだろうか」——への答えが、少し変わった気がしました。

「今、新しい薬も出てきています。将来的に治験に参加してもらうことになるかもしれません。そのときはまた説明しますので、考えてみてください。」

医療は、進んでいる。その言葉に、小さな希望を感じました。

食事については、意外なほど現実的な話がありました。

🌼 「ラーメンを食べてはいけない、ということではありません。スープを残せばいい。味噌汁も、半分にする工夫をすれば。天ぷらや脂身の多い肉は控えてほしいですが、魚を意識して取るようにしてください。」

「完全禁止」ではなく、「工夫しながら続ける」。その姿勢が、長期間の生活管理には現実的だと感じました。

1月26日——CPX(心肺運動負荷試験)の日

「めちゃくちゃ負荷のかかる検査です」と予告されていたCPX(心肺運動負荷試験)に、この日も付き添いました。

自転車をこぎながら少しずつ負荷を上げていき、体がどこまで耐えられるかを機械で測る検査です。彼がペダルをこぐ姿を、私は横で静かに見ていました。

検査が終わったとき、検査技師の方が彼に言いました。

「一般の方よりかなり高い運動耐容能です。普通の人の倍くらいはいけています。」

——CPX検査技師の方より

その言葉を横で聞いた瞬間——心の底からほっとしました。

プロサーファーとして長年、海の中で体を鍛え続けてきた彼。心筋梗塞を経験した後でも、その積み重ねは消えていなかった。機械が測った数字が、彼がこれまで歩んできた時間を証明していた。

どれだけ体と向き合い、波の中で生きてきたか——その年月が、ちゃんと刻まれていました。

サーフィンについての、正直な話

CPX後、先生からサーフィンについて正直な説明がありました。曖昧にしない、静かで明確な言葉で。

🔴 「本来は発症から1年間は待つのが基本的な考え方です。サーフィンはかなり負担のかかる運動なので、今回測定した安全域の上限を超える負荷がかかるはずです。『やっていいか?』と聞かれたら、勧めません。次に心筋梗塞を起こしたら、おそらく命はありません。」

静かでしたが、はっきりした言葉でした。「勧めない」と言いながら、「禁止」とは言わない——その言葉の選び方に、先生の誠実さを感じました。

「『絶対にダメか?』と言われると——自己判断で軽めにやる分には、問題が起きる可能性は高くないとは思います。ただ、冷たい水・水分バランスの変化・突発的な負荷といった別のリスク要因もあります。医師として大丈夫とは言えません。」

🌼 「もし行くなら、必ず誰かと一緒に。AEDが近くにある場所でのサーフィンが安心です。」

「1年間は勧めない。でも、お遊び程度なら6か月経てば。暖かくなれば行っても構いません。こればかりは自己責任になります。」

彼がその言葉を、どんな表情で聞いていたか——横にいた私には、よく見えました。何も言わなかったけれど、静かにうなずいていました。

その夜、娘さんにメールを送りました。「先生に正直に話してもらえてよかった」と。

3月9日——次の半年を決めた日

3月の受診では、今後の検査の方針が決まりました。

右冠動脈の75%狭窄については、半年後にカテーテル検査などで評価していく。それまでは薬で管理しながら経過を見ていくという方針です。

⚠️ 「1年以内に15〜20%の確率で悪化する可能性があります。ただ、今すぐ治療が必要な状態ではありません。定期的に体を動かしながら生活することで、もし症状が出れば早く気づけます。」

そして先生から、こんな言葉がありました。

🔴 「動いたときに毎回、胸の違和感・息苦しさ・冷や汗・首や肩への痛みが出るようなら、右冠動脈の治療が必要なサインです。我慢せず、すぐに受診してください。」

「本人が一度発症しているので、いつもと違う感じは、自分が一番わかるはずです。」

——国循 担当医より

その言葉が、とても印象に残りました。体の声を、誰より知っているのは本人だということ。どんな数字よりも、自分の感覚を信じてほしい——そういう意味に聞こえました。

「生きて、生きて、生きてもらいましょう」

3か月間の受診を終えて、私は娘さんへの報告メールにこう書きました。

「普通の生活なら問題ないようなので、楽しみをつくりながら、生きて生きて生きてもらいましょう。」

心筋梗塞は、人生を終わらせる病気ではありません。でも、以前と「まったく同じ生き方」に戻ることが難しくなることもある。

それでも——彼には海があります。サーフィンがあります。仕事があります。そして、ほんわり優しい笑顔があります。

「1年後に、また海に入れるかもしれない。」その希望を持ちながら、今は自分の体と丁寧に向き合う時間。その時間が、彼にとって無駄ではないと、私は思っています。

国循での3か月でわかったこと——まとめ

  • EF(心機能の指標)は60〜65%——心臓のダメージは最小限だったとされている
  • CPXの結果は「一般の人の倍」——プロサーファーとしての積み重ねは本物だった
  • ⚠️ 右冠動脈の狭窄は引き続き経過観察——半年後に再評価予定
  • 🏄 サーフィンは1年間は控えるのが医師の見解——6か月後くらいから軽い波なら検討可
  • 🌼 「いつもと違う感じ」を見逃さないことが、何より大切

医療の数字は、ときに冷たく見えます。でも、あの日の「普通の人の倍」という言葉は、数字の向こうに彼の生き方が見えた気がして、温かかった。

彼の体は正直でした。海に向き合い続けた年月が、ちゃんと刻まれていた。それだけで、十分だと思いました。

【参考・情報源】

・国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/
・日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン」 https://www.j-circ.or.jp/

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※ この記事の執筆者は看護師国家資格保有者(看護師歴20年以上/外科・内科・集中治療・訪問看護)であり、ファイナンシャルプランナー資格を保有。また、元ライフセーバーとしての救護経験も有しています。医療・生活・海の安全にわたる幅広い知識をもとに執筆していますが、本記事は医師の監修を受けたものではありません。医療的な判断については、必ず担当の医師・医療機関にご相談ください。

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