【第3話】「薬は絶対にやめてはいけません」——心筋梗塞後の薬・4つの柱と、彼が実際に飲んでいるもの

薬は絶対にやめてはいけません 心筋梗塞の記録

📖 この記事はシリーズの第3話です。第1話第2話を読む

「薬は絶対にやめてはいけません。」

退院時、担当医より

退院の日、担当医からそう伝えられました。なぜやめてはいけないのか——その理由を知らないまま薬を飲み続けることは、実はとても危ういことでもあります。

この記事では、心筋梗塞(特にステント留置後)の退院後に処方される代表的な薬の種類と役割を、訪問看護師の視点からお伝えします。また、彼が実際に処方されている薬も、各項目の最後に()でご紹介しています。

難しい言葉はできるだけ使いません。本人だけでなく、そばで支える家族にも読んでいただけたら嬉しいです。

⚠️ 処方される薬の種類・用量は、患者さんの状態によって異なります。記事内の薬はあくまで一例です。担当医の指示に従って服用してください。

退院の日、先生が言ったこと

10日間の入院を経て、彼が退院する日が来ました。

私はその退院に立ち会えませんでした。宮崎まで迎えに行くことができず、退院の手続きや先生からの説明は、駆けつけてくれた彼の娘さんが受け取ってくれました。

飛行機に乗っても大丈夫なのか、長時間の移動は心臓への負担にならないか——退院に向けて、担当医と慎重にいくつものことを相談しながら進めた日々でした。遠くにいながら、できることをすべてやろうと思いました。

後から伝え聞いた中で、先生が特に強調されたのがこの言葉でした。薬は絶対にやめてはいけません。

医療の知識がなければ「なぜ」がわからないまま薬を飲み続けることになります。「なぜやめてはいけないのか」を知ることが、治療を続ける力になると思っています。

心筋梗塞後の薬——4つの柱

心筋梗塞の治療は、ステント(血管の中に置く小さな金属の筒)を入れて終わりではありません。むしろ本当に大切なのは、その後の再発予防です。

退院後に処方される薬には、それぞれ明確な役割があります。ここでは、「4つの柱」に分けてわかりやすく解説します。

【柱①】血栓を作らせない

ステントを入れた血管は、異物が入った状態のため血栓ができやすくなります。そのため、血液をさらさらにする薬を使って再び詰まるのを防ぎます。

代表的なものが「抗血小板薬」で、2種類を同時に内服する「DAPT(二重抗血小板療法)」が、ステント留置後の標準的な治療とされています。それぞれ異なる仕組みで血小板の働きを抑えることで、より確実に血栓を予防するためです。

*内服期間は病状により異なりますので、担当医の指示に従ってください。

(この柱で彼が飲んでいるのは、エフィエント錠 3.75mg[プラスグレル:P2Y12阻害薬]とタケルダ配合錠[アスピリン+胃を守るランソプラゾールの合剤]です。)

【柱②】心臓を守る・心不全を予防する

心筋梗塞で心臓の筋肉が一度ダメージを受けると、その後、心臓の形や働きが変化していくことがあります。これを「リモデリング」といいます。この変化が進むと、将来的に心不全につながる可能性があるとされています。

こうした変化を抑える目的で、ACE阻害薬やARB、近年ではエンレスト(サクビトリル・バルサルタン)などの薬が使われることがあります。

(この柱で彼が飲んでいるのは、エンレスト 100mg です。)

【柱③】血圧・脈を安定させる

心拍数が高い状態が続くと、心臓にかかる負担が大きくなります。そのため、心拍数を落ち着かせて心臓を休ませる「β遮断薬」が使われることがあります。これにより、心臓の負担を軽減するだけでなく、再梗塞の予防にもつながるとされています。

退院直後は少量から開始し、体の状態を見ながら徐々に調整していくことが一般的です。

(この柱で彼が飲んでいるのは、ビソプロロールフマル酸塩錠 0.625mg です。)

【柱④】コレステロールを下げる

心筋梗塞の原因の一つとされる動脈硬化を進行させないために、コレステロールをしっかり管理することが重要とされています。

スタチンなどの薬は、コレステロールを下げるだけでなく、血管の中にあるプラーク(詰まりの元になる塊)を安定させる働きもあるとされています。そのため、再発予防において重要な役割を担っているとされています。

また、中性脂肪や動脈硬化の進行を抑える目的で、イコサペント酸エチル(EPA製剤)が処方されることもあります。

(この柱で彼が飲んでいるのは、ロスバスタチン錠 5mg、ロスーゼット配合錠LD[ロスバスタチン+エゼチミブの合剤]、イコサペント酸エチル粒状カプセル 900mg です。)

🔴 「症状がないから飲まなくていい」ものではありません。再発を防ぐために継続して飲み続けることが大切です。自己判断で中断してしまうと、再び血管が詰まるリスクが高まる可能性があるため、必ず医師の指示に従って継続することが重要です。

「絶対にやめてはいけない薬」、その理由


中でも特に注意が必要なのが、抗血小板薬(アスピリン+プラスグレルなど)です。

なぜ自己判断でやめてはいけないのか——その理由を少しだけ説明させてください。

ステントを入れた直後の血管には、金属が体の中に存在しています。体はその金属に対して「固めよう」と反応しますが、それが行き過ぎると血の塊(血栓)ができてステントが詰まってしまうことがあります。これを「ステント血栓症」といい、非常に危険な状態とされています。

💊 抗血小板薬は、この「固めよう」という反応を抑えるために飲んでいます。「体調がいいから」「副作用が嫌だから」という理由でやめてしまうと、血栓ができるリスクが高まる可能性があります。

日本循環器学会のガイドラインでは、ステント留置後は原則として一定期間の継続服用が推奨されています。治療後の早い時期は特に注意が必要とされています。

「もし薬について不安なことがあれば、必ず担当医に相談してください。自己判断でやめることだけは、しないでほしいと思います。」

——看護師として、一番伝えたいこと

緊急時の薬について

彼には、緊急時のために頓服薬も処方されています。

狭心症の発作など、急に胸が痛くなったときに使う薬として、ニトロペン舌下錠(0.3mg)ミオコールスプレーがあります。

これらは普段から飲む薬ではなく、「いざというとき」のために手元に置いておく薬です。使うタイミングや使い方は担当医の指示に従ってください。

🌼 「いつもと違う胸の感じ」があったとき、迷わず手が届く場所に置いておくことが大切です。緊急時の薬は、すぐに取り出せる場所を決めておきましょう。

この記事で伝えたかったこと

心筋梗塞の治療は、ステントを入れて終わりではありません。そのあとの「毎日の薬を続けること」——これが、再発を防ぐ本当の治療だと思っています。

この記事を書いたのは、「知っていたから動けた」という経験があったからです。医療の知識は、医療者だけのものではないと思っています。

「なんで薬を飲まなきゃいけないの?」という疑問に答えられるようになることが、本人も家族も、治療を長く続ける力になると思います。

この記事が、大切な人の回復を支えるための小さな道しるべになれば嬉しいです。

【参考・情報源】

・日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン」https://www.j-circ.or.jp/

・国立循環器病研究センター https://www.ncvc.go.jp/

※ 記事内の薬の情報は、実際の処方内容をもとにしています。処方される薬の種類・用量は患者さんの状態によって異なります。

※ 各サイトの情報は更新されることがあります。最新情報は各機関のウェブサイトをご確認ください。

【免責事項】

※ この記事は、個人の体験および実際の処方内容をもとにした情報提供を目的としており、特定の診断・治療・服薬の指示を行うものではありません。

※ 薬の種類・用量・治療方針は個人によって大きく異なります。記事内の薬はあくまで一例であり、担当医の指示が優先されます。

※ 薬の変更・中断・追加については、必ず担当医にご相談ください。自己判断での中断は、重大なリスクを伴う可能性があります。

※ この記事の執筆者は看護師国家資格保有者(看護師歴20年以上/外科・内科・集中治療・訪問看護)であり、ファイナンシャルプランナー資格を保有。また、元ライフセーバーとしての救護経験も有しています。医療・生活・海の安全にわたる幅広い知識をもとに執筆していますが、本記事は医師の監修を受けたものではありません。医療的な判断については、必ず担当の医師・医療機関にご相談ください。

※ 記事内の情報は執筆時点のものです。医療情報は更新されることがありますので、最新の情報は各公的機関・医療機関のウェブサイトをご確認ください。

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