サーフィン中に心筋梗塞——「食中毒かな」が命取りになるかもしれない話

サーフィン中に心筋梗塞——看護師が気づいたあの日の体験談 心筋梗塞の記録

「胸が苦しい。こんな苦しいことあんの? 食中毒かな。」

——あとから振り返れば、これが心筋梗塞のサインでした。

サーフィン中、彼がそう言いながら冬の浜辺でウェットスーツを脱ぎ始めたとき——私の中で、何かがはっきりと警告を鳴らしました。

看護師として20年以上、ICUで幾多の急変に立ち会ってきた私でも、大切な人のこととなると——知識と感情は、まったく別のものだと気づかされます。それでも、体が覚えている感覚が、「これは違う」と告げていました。

救急車の中で「心筋梗塞の疑い、急いで搬送します」と告げられたとき——「早く動いてよかった」と、心の底から思いました。

この記事では、あの日浜辺で何が起きたか、私が看護師として何を感じ、どう動いたかを、できるだけ正直にお伝えします。心筋梗塞は「時間との戦い」と言われています。この体験が、あなたや大切な人を守るための、小さな一助になれば嬉しいです。

あの日、何が起きていたか

12月28日、私は訪問看護のオンコール明けでした。疲れてはいたけれど、彼と一緒に宮崎へ向かうことがずっと楽しみでした。

下道と高速を使い、高速道路のパーキングで寝袋に包まって仮眠を取りながら、二人でクタクタになるまで走りました。先に目が覚めた彼は、友人が待っているからと、そのまま運転を続けてくれました。

加江田ビーチに着いて、現地で待ち合わせていた友人たちと一緒に海へ入りました。二人とも疲れはあったけれど、久しぶりの宮崎の海に気持ちはすっかり高ぶっていました。彼は純粋な笑顔で、待ちきれないように波の中へと入っていきました。ダンパー気味の波でサイズもやや大きかったので、私は少し離れた人の少ない場所で入っていました。

しばらくして、彼が私の名前を呼びながら「上がって」という合図をしてきました。「なんだろう?」と思いながら浜に上がると、彼は砂の上に立ってこう言いました。

「胸が苦しい。こんな苦しいことあんの? 食中毒かな。」

そう言いながら、寒い中でウェットスーツを脱ぎ始めたのです。

——それを見た瞬間、私の頭の中で何かが切り替わりました。

看護師として気づいた「3つの異変」

海から上がった彼を見て、私がすぐに感じたのは次の3つです。

【異変①】寒いのに、ウェットスーツを脱ごうとする

12月の浜辺は宮崎と言えど冷えています。その状況でウェットスーツを脱ごうとするのは、通常では考えにくい行動です。「胸が苦しくて、何かを緩めたい」という体の反応である可能性があると感じました。強い胸部症状が出ているときに見られるサインの一つとされています。

【異変②】冷や汗と、荒い呼吸

砂浜に横になってもらったとき、多量の冷や汗が出ていて、息が荒い状態でした。冷や汗は、体が危機的な状況を感知したときに交感神経が反応して起こると言われています。海から上がったばかりで、これほどの冷や汗をかくのは普通ではありません。

【異変③】「食中毒かな」という言葉のズレ

本人が「食中毒かな」と言ったこと自体が、重要なサインだと感じました。心筋梗塞の症状は、吐き気や「胃のあたりが変」という形で現れることがあると言われています(これを「放散痛」「非典型症状」と呼びます)。医療者でなければ気づきにくい、見落とされやすい症状です。

そして、「こんな苦しいことあんの?」という言葉。

心筋梗塞の胸の苦しさは、「刺さるような痛み」ではなく、「締め付けられる感じ」「重い感じ」「ものすごい圧迫感」として表現されることが多いとされています。彼の言葉は、まさにその典型的な表現でした。

判断と行動——救急車を呼ぶまで

「心筋梗塞かもしれない」と思いました。でも同時に、「違う病気かもしれない」という迷いもありました。

頭の中でいくつものことを同時に考えながら、まず彼を砂浜に横にして、安静にさせました。

携帯電話を取りに、車まで走りました。ウェットスーツにはポケットがないので、車の中に置いていたのです。

頭の中は、いくつものことで溢れていました。ウェットスーツのまま病院へ行けるのか。自分たちで乗ってきた車はどうすればいい。一緒に救急車に乗りたいけれど、せっかくのお正月休みを楽しみにしていた友人たちに、これ以上迷惑をかけてはいけない——。

そのとき、友人たちが言ってくれました。「救急車が車まで彼の傍にいるから、今の間に着替えておいで。」「俺たちが車を病院まで届けるから、救急車に乗って。」

宮崎という遠い場所で、あの言葉は奇跡のように感じました。一つひとつの気がかりを、友人たちがそっと引き受けてくれた——その瞬間、やっと救急車に乗ることができました。

救急車の中で、心電図を見ながら救急隊員が言いました。「心筋梗塞の疑いがあります。死んでしまうから、急いで搬送します。」

激しく揺れる救急車の中で、救急隊員と一緒に彼のウェットスーツをハサミで切りました。体に密着した生地を切り終えた途端——「寒い、寒い……えらい」と彼が言い始めました。揺れる車内で、その声が胸に刺さりました。

病院到着——重なった、いくつかの幸運

病院に着いたとき、私はポンチョ姿に砂だらけの草履、そして頭は海から上がったままのずぶ濡れの状態でした。先生に呼ばれて診察室に入ったとき、「おぉ、なんだか可哀想になってくる格好だね。寒いでしょう」と気遣ってくださいました。

ちょうどカテーテル室が空いたところで、祝日だったにもかかわらず循環器の専門医が院内におられました。ドクターヘリも備えた大きな病院で、医療設備がしっかり整っている印象でした。こんなタイミングが重なるのかと——これもまた、奇跡としか言いようがありませんでした。もしあの日が、日本海の寒い僻地での出来事だったなら、彼の命はなかったかもしれない。宮崎の、あの病院でよかったと、今も思います。

搬送後、すぐさま緊急のカテーテル治療が行われました。処置後、先生から結果を告げられました。

左前下行枝(LAD)——心臓に血液を送る重要な血管の一本——が100%詰まっていた」とのことでした。それでも彼は会話ができる状態で、点滴も最小限で済んでいました。処置はすみやかに行われました。

のちに先生から言われた言葉が、今も耳に残っています。

「3人に1人が死ぬ。早く来てよかった。」

Time is muscle——時間は心筋だ。医療の現場で使われる言葉ですが、あの日、それをまざまざと実感しました。

知っておいてほしい「気づきにくいサイン」と「すべき行動」

医療の専門家でなくても、次のことを知っておくだけで、大切な人のそばで動ける可能性があります。

こんな症状が重なったら、迷わず行動を!

・胸の中央〜左側が締め付けられる、重い感じ、圧迫される感じが続く

「食中毒かな」「胃がおかしい」と思うような、みぞおちあたりの強い不快感が続く場合(こちらに関しては特に他の症状と重なるとき)

左腕・肩・あご・背中に広がる痛みやだるさ(放散痛)

冷や汗が出て、顔色が悪い

「いつもと違う、何かおかしい」という本人や周囲の直感

※ これらの症状が必ずしも心筋梗塞を意味するわけではありません。また、心筋梗塞の場合でも症状の現れ方には個人差があります。複数のサインが重なるとき、または「何かおかしい」と感じるときは、迷わず119に連絡することが大切とされています。また、救急車を呼ぶか迷った場合は、全国共通の短縮ダイヤル#7119へ電話してみてください。看護師や医師が24時間体制で緊急性を判断し、救急車の手配や適切な病院の紹介をしてくれるそうです。

やってはいけないこと

「様子を見よう」と時間をかける

 → 発症からの時間が経過するほど、心筋へのダメージが大きくなる可能性があるとされています

本人を自分で歩かせる

 → 心臓にさらに負担がかかる可能性があります

水や食事を与える

 → 誤嚥したり、病院での処置の妨げになることがあります

救急車が来るまでにできること

楽な姿勢で安静にさせる(無理に動かさない)

衣服を緩める(ベルト・ネクタイ・きつい服など)

本人を一人にしない

かかりつけの薬(特に心臓・血圧の薬)があれば準備して救急隊員に伝える

・意識がなくなった場合は、AEDを探し、心肺蘇生法(CPR)を開始する

迷ったら、すぐ119に電話してください。「大げさかな」と思う必要はありません

もしサーフィン中に、「胸が痛い」と言われたら

海の中では、体の異変に気づきにくいことがあります。波に揉まれる疲れや、冷たい海水による体の冷え——「疲れかな」「食べすぎかな」と思いやすい状況の中で、心筋梗塞のサインは見落とされやすいかもしれません。

もし一緒にサーフィンをしている人が「胸が苦しい」「なんかおかしい」と言い始めたら、まずすぐに海から上がってもらうことが大切です。泳いで戻らせるのではなく、可能であれば一緒に付き添って上がってください。

上がったあとは、砂浜で横にして安静にさせ、迷わず119番に電話してください。「サーフィン中に胸が痛くなった」という状況を、そのまま伝えて大丈夫です。

冬の海は特に注意が必要です。冷たい海水は血管を収縮させる可能性があるとされており、心臓への負担が増すことがあると言われています。体が丈夫そうに見える人でも、海の中では無防備になりやすいことを、あの日改めて感じました。

サーフィンをする方もそのご家族も、「まさか海で心筋梗塞が」と思うかもしれません。でも、起きるときは起きます。だからこそ、「いざとなったら119番」という判断を、ためらわずにできるようにしていてほしいと思います。

心筋梗塞とは——基礎知識

心筋梗塞とは、心臓に血液を送る冠動脈が詰まり、心臓の筋肉(心筋)が壊死してしまう病気です。

原因として多いのは、動脈硬化によってできたプラーク(塊)が破れ、血栓が血管を塞ぐことだとされています。日本では年間約20万人が発症すると言われており、適切な治療を受ければ回復できる可能性がありますが、発症から治療開始までの時間が長くなるほど、心臓へのダメージは大きくなるとされています。

【主な危険因子】*日本循環器学会の情報を参考にしています

高血圧、脂質異常症(コレステロールが高い)、糖尿病

喫煙

肥満・運動不足

強いストレスや過労

遺伝的な体質(家族に心疾患がある方)

冬の寒冷刺激(血管が収縮しやすい環境)

これらの危険因子がない方でも発症する場合があります。「自分には関係ない」と思わず、体のサインを大切にしていただけたらと思います。

この体験から伝えたいこと

あのとき、私がそばにいたのは偶然でした。でも、知識を持っていたことは偶然ではありません。

「看護師だから気づけた」というより、「こういうサインがある可能性を知っていたから動けた」——そう思っています。

そして何より、友人たちがいてくれました。着替えを促してくれた友人、車を病院まで届けてくれると言ってくれた友人、一緒になって彼を守ってくれた友人。友人たちの言葉があって、私はやっと身一つで救急車に乗ることができました。

それから、もう一つ。この場を借りて、どうしてもお礼を伝えたいことがあります。

あの日、浜辺で彼の異変に気づき、心配そうに声をかけてくださった方々がたくさんいました。バスタオルをそっとかけてくれた方、「大丈夫ですか」と歩み寄ってきてくださった方——名前も知らない方たちです。

見知らぬ人に、あんなに温かくしていただいたこと、今も忘れられません。あの日の浜辺にいてくださったすべての方々に、心からありがとうございましたと伝えたいです。

「こういうことがあるかもしれない」と知っていることが、目の前の異変に気づく力になる可能性があります。

「いつもと違う」「何かおかしい」——その感覚を大切に、迷ったらすぐ119番に電話してください。

この記事が、あなたにとっての「知識」の一つになれば、それだけで書いた意味があります。

心筋梗塞は、他人事ではありません。あの日の彼のように、元気で活動的な人にも、突然起きることがあります。「こういうことがあるかもしれない」と頭の片隅に置いておくだけで、いざというとき動ける力になる可能性があります。

大切な人のそばで、ためらわず動ける人が一人でも増えてほしい——それが、この記事を書いた理由です。

参考・情報源

※ 各サイトの情報は更新されることがあります。最新情報は各機関のウェブサイトをご確認ください。

【免責事項】

※ この記事は、一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の診断・治療・服薬の指示を行うものではありません。

※ 記事内で紹介している症状や対応は、すべての方に当てはまるわけではありません。症状の感じ方や経過には個人差があります。

※ 胸の痛みや息苦しさなど、気になる症状がある場合は、自己判断せず、必ず医療機関を受診するか、緊急性があると感じた場合は119番に連絡してください。

※ この記事の執筆者は看護師国家資格保有者(看護師歴20年以上/外科・内科・集中治療・訪問看護)ですが、本記事は医師の監修を受けたものではありません。医療的な判断については、必ず担当の医師・医療機関にご相談ください。

※ 記事内の情報は執筆時点のものです。医療情報は更新されることがありますので、最新の情報は各公的機関・医療機関のウェブサイトをご確認ください。

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